作曲:L.デンツァ
編著:延安昭一
A4判/164頁
グレード:中級
ISBN 978-4-7609-4161-2
世界初の「デンツァ歌曲集」。
ルイジ・デンツァ(1846〜1922)は何と言っても「フニクリ・フニクラ」が有名であるが、トスティ(1846〜1916)と同年生まれで、英国に教師として渡った経歴も同じ。当時はトスティに匹敵する評価を得ていた作曲家である。のちに研究者がいち早く再評価したトスティに比べ、多くの楽譜が散逸し、なかなか光が当たらなかった。
ローマで活躍するテノール歌手 延安昭一が長年かけて収集した楽譜をもとに、華やかで香り高いデンツァの歌曲が甦る。全25曲。
1. さらば!(永久の別れ) Addio!(D. Pandolfi 詩)
2. 乾杯 Brindisi(E. Mancini 詩)
3. 春の、と或る日だった Era un dì di primavera(P.Malarbi 詩)
4. 僕から逃れなさい! Fuggimi!(L. G. Mancini 詩)
5. フニクリ・フニクラ Funiculì-funiculà(P. Turco 詩)
6. 徴兵適齢の息子 Il figlio del coscritto(P.Thouar 詩)
7. 憩いの川 Il fiume del riposo(F. E. Weatherly 詩/R. E. Pagliara 伊訳)
8. ああ、ナポリ! Napoli!(R. E. Pagliara 詩)
9. 君は、もはや僕を愛さない! Non m'ami più!(A. de Saineville 詩/R. E. Pagliara 伊訳)
10.僕を見棄てないで! Non mi lasciar!(G. Hubi Newcombe 詩/C. Clausetti 伊訳)
11.もう、貴女を愛さない! Non t'amo più!(L. de Giorgi 詩)
12.妖精の瞳 Occhi di fata(Tremacoldo 詩)
13.トルコ・ブルーの瞳! Occhi turchini!(R. E. Pagliara 詩)
14.道を歩けば Quanno passo pe lla via(E. Bonadia 詩)
15.クィジサーナの追憶 Ricordo di Quisisana(F. Gumbert 詩/E. Jammy)
16.もしも…… Se......(E. Mancini 詩)
17.いつも君を想い! Sempre te!(A. Chapman 詩/R. E. Pagliara 伊訳)
18.僕を愛してくれるなら! Si tu m'aimais!(R. E. Pagliara 詩)
19.切望! Smanie!(R. de Zerbi 詩)
20.君の佇むバルコニーに Sul tuo verone(E. Bonadia 詩)
21.貴女を想い! T'allicuorde!(E. Bonadia 詩)
22.君がすべて! Te sola!(G. Gloag 詩)
23.君よ! Tu!(G. Gloag 詩)
24.ああ、君が恋しい!―ナポリの思い出― Tu manchi, o fiore! (Eco di Napoli)(N. F. Faraglia 詩)
25.来なさい! Vieni!(C. Enrico 詩)
<まえがき> 2008年11月、精微を尽くした私の歌唱分析による『トスティ歌曲選集』がカワイ出版から刊行され、お蔭様で好評を頂いております。 その出版に続き、再度カワイ出版より、19世紀後半にナポリで活躍した、ルイジ・デンツァ作曲による歌曲集の編纂をして頂きたい、という非常に光栄なお申し出を受けました。しかしながら、難渋をきわめる、実に大変な作業となり、3年6ヶ月の歳月をかけ、ここに、ようやく完成することができました。 デンツァの遺した膨大な作品より、90曲以上にもおよぶ作品収集に成功し、その中から、厳選に厳選を重ねた結果、遂に『珠玉の25曲選集』編纂実現に漕ぎ着け、いま漸く、その達成感と安堵の思いに浸っております。 この3年6ヶ月を感慨ぶかく顧みますと、デンツァ没後、約100年の間、イタリア全土に亘り散乱していた作品はもとより、陽の目を見ることなく、暗い音楽資料室に保存されていた作品収集にも奔走し、彼の生誕地、カステッランマーレ市はもとより、多くの関係者の温かいご配慮とご尽力を得て、数多くの作品収集に成功し、完成に辿り着いた次第です。 デンツァの作品収集を通して、特筆すべき偉大な発見は、彼もF. P. トスティと同様に、500数曲にも及ぶ、膨大な作品を遺しており、さらにF. P. トスティと同時代に活躍した大作曲家であるという事実でした。私見ながら、デンツァもイタリア近代歌曲の先駆者として、トスティに匹敵するほどの偉大な芸術家である、と確信をもって申し上げることができます。この二人の偉大な芸術家の出会いについて、余り知られていないエピソードを一つ、ここにご紹介したいと思います。 1870年3月28日、カステッランマーレの町で、イタリア国王サヴォイヤ家ご夫妻の訪問を記念して、大々的な祝賀会が開催され、その音楽を担当したのが、まさにトスティとデンツァだったのです。青年トスティは、詩人エンリーコ・ボナーディアが、ナポリ方言を用いて書いた歌詞に、デンツァの作曲したロマンス曲『タッリクォルデ!』を歌い、ピアノ伴奏をしたのがデンツァでした。その後、この曲はデンツァのロマンス曲集に収集され出版されますが、二人の芸術家を結ぶ友情と敬愛心、素晴らしい芸術家の温かい心は、彼らの作品を通して、現在のように生存競争の激しい世代に生きる私たちを、優しさでそっと包んでくれるようにも思われます。 さらに、この二人の偉大な芸術家の個性あふれる独特な作品を通し、トスティの有する音楽芸術の特徴は「甘美」の一言そのものであり、ルイジ・デンツァの有する音楽芸術は、妖艶と色彩感に溢れる「華麗」の一言に尽きる、と私は視ております。 本歌曲選集の完成にあたり、日本声楽界はもちろんのこと、本場のイタリアに於いてさえ、デンツァ歌曲集の存在が皆無の状況にある現在、この出版の意味する反響、さらに、その評価は計り知れないもの、と私は深く信じております。また、この選集が芸術家ルイジ・デンツァへの再評価と彼の作品を理解する上での指標となり、声楽を志す者はもちろん、日本声楽界においてバイブル的選集として親しまれ愛されるならば、編者として、これほど嬉しいことはありません。 延安昭一 |