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松下 耕:女声合唱とピアノのための「あどけない帰郷」

価格 : 税込1,760円(本体1,600円)
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作曲:松下 耕
作詩:山崎佳代子
A4判/48頁
グレード:中〜上級
演奏時間=約20分20秒
ISBN 978-4-7609-1752-5

ベオグラード在住の詩人が日本に帰ってきた時の風景や心象、そしてベオグラードでの実景などがテーマとなっている。世の中の動向に対する違和感、それは戦火と隣合わせの街に住んでいる詩人の平和への希求でもあるが、音楽は、その言葉を声高に再現するのではなく、逆に静かに、優しく、問いかけるように歌われる。

1 厳冬を軍艦は出てゆき (3'50")
2 三月の岸に棄てられたものに (4'35")
3 戒厳令、ちぎれた風景 (4'45")
4 あどけない帰郷 (7'10")

<まえがき>

 私は、セルビア、ベオグラード在住の詩人、山崎佳代子と、これまでに一体どれだけの作品を作り出して来たのだろう。知らないうちに、数多くの合唱作品を二人で生み出してきたものだ。
 お互いに、連絡を取り合いたくても時差に阻まれるほど遠くに住んでいながら、お互いの想いを理解し合ってきた、と、私は思っている。その、理解の根底に『平和への冀求』がある。逆に言えば、世界に対する『危機感』である。
 彼女は言う。「森の中からは、人間を恐れて動物たちが姿を消した。しかし、人こそ自然を破壊し、意味のなき戦いを続ける恐るべき獣なのだ」と。
 私の音は、彼女の言葉を包み込み、また、言葉の内側から投げ出され、あるときは行き場をなくし、あるときは言葉を森へ返す。
 この作業は、所謂エクリチュールの領域を遙かに超えて、スピリチュアルなインスピレーションを、私に喚起させるのである。

 『厳冬を軍艦は出て行き』と『あどけない帰郷』は、2003年に山崎が帰郷、つまり帰国したときに感じたこと。この曲を書いた2014年、私が危機感を感じたことと同じ想いである。この組曲の作曲は、この、想いのシンクロから始まった。  『三月の岸に棄てられたものに』は、山崎の家に近いドナウ川の支流の実景。人間と自然との関係を描く。山崎は、「人間が謙虚になれば、戦争は起こらない」と断言する。私も、心からそう思う。『戒厳令、ちぎられた風景』は、コソボで実際に行われたエスニッククレンジング(民族浄化)を描いている。

 戦争に対する嫌悪、平和への冀求。この二者一体のテーマは、夥しい数の詩人と作曲家により、合唱曲として世に出されてきたが、この組曲は、声高に凄惨な場面を再現しようとはしていない。むしろ、全く逆の表現で――静かに、優しく、問いかけるように歌われる。――この組曲の中で詩人は、女性を平和の象徴として登場させている。女性の優しい感性で語られる平和への想い、そんな表現の曲があっても良いと私は思ったのだった。
 最終曲に繰り返し現れる象徴的な旋律は、穢れなき乙女が口ずさむ牧歌だ。この組曲の女性性は、こんなところにも表されている。(文中敬称略)
 
松下 耕

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